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【現代ビジネス研究所・研究助成金採択プロジェクト】燕三条地域の加工技術とグローバル優位性~産業集積を支えるものづくりのDNAを探る

燕研修2日目

ビジネスデザイン学科1年の萩琴乃(はぎ・ことの)です。 

 

燕研修2日目(2022年8月9日)のご報告をさせていただきます。 

この日は株式会社カンダの神田智昭(かんだ・ともあき)社長に講義をしていただき、そのあと、「一笑百姓」ひうら農場で、 27代目当主の樋浦幸彦(ひうら・ゆきひこ)さん、髙畑株式会社取締役店長の髙畑篤志(たかばたけ・あつし)さんにお話を伺いました。その日の最後は、宮町シェアオフィスを見学し、株式会社新越ワークスの山後隼人(さんご・はやと)取締役事業部長にお話を伺いました。 

 

株式会社カンダ 

 

株式会社カンダは卓上用品全般を取り扱う総合商社です。燕で作られた商品を仕入れ、レストラン、ホテルなどに販売しています。主に中華料理の業務用調理器具を取り扱っており、顧客からの要望を反映させた商品を開発するメーカーでもあります。また、日本で唯一の中国料理道具専門店で、1965年の創業当初から中国料理道具を製作しています。 

首都圏に比べて土地が安いこともあり、燕市にある大きな倉庫に商品を多くストックし、全国に発送することができます。全国の調理器具の80%が燕三条から発送されているそうです。 

他にも、燕市では事業承継の問題で工場が少なくなっていることから、若い人のエンパワメントや、注文を積極的に取ってくること、また、工場の改革(イメージアップ、オープンファクトリーなどの発信)などの活動に力を入れています。株式会社カンダではそういうことに取り組んでいるそうです。 

 

株式会社カンダのHP 

中国料理道具 株式会社カンダ (kankuma.co.jp) 

 

神田社長からはまず、カンダで販売している二重構造の食器「メタル丼」を紹介していただきました。「メタル丼」は二重構造になっているため、価格は少し高いのですが、保温機能にたけています。開発の着想は、工場で働く人に、熱々のラーメンを出前で提供したいという思いからだそうです。 

 

次に、酒器を紹介していただきました。新潟は日本酒が有名であるため、カンダで開発した「二重構造」を使用したものを作りたいと考え、2021年、ステンレスでお燗(かん)しても金属臭がしない”とっくり”が開発されました。

写真1、2: メタル丼の酒器(ハイグレードストア店内にて)

出所:根橋研究員撮影

 

また、新越ワークスが開発・製造している「まどろむ酒器」という、冷たい飲み物を注ぐと外側の装飾の色が変化するも酒器も、カンダのお店に並んでいます。酒器の販売方法としては、ふるさと納税では酒器も人気ですが、国内外に単品で売り出してもなかなか売れないため、酒造メーカーなどとタイアップをして販売することを考えているそうです。 

 

写真3、4: まどろむ酒器(ハイグレードストア店内にて)

冷たい飲み物を注ぐと外側の桜や紅葉の模様に色が付きます。 撮影者:萩 

 

株式会社カンダでは、中国への輸出にも力を入れており、燕が羽ばたいていくように、「燕舞(Yan Wu)」というブランド名で展開しています。2017年に中国企業と提携し中国市場に参入、現在では、中国の家庭に「丈夫で長持ちする」と多く普及しているそうです。 

 

最後に、会社と倉庫に併設された「ハイグレードストア」を見せていただきました。ここでは、取り扱っている商品の一部を直売しており、金属が美しく見えるように証明などが工夫されています。また、陳列棚に木材が使用されているので、とても温かみのある印象を受けました。

 

写真3:ハイグレードストア店内 

出所:松田さん撮影 

 

 

「一笑百姓」ひうら農場 

 

ひうら農場は、新潟県の中央部、弥彦山(やひこやま)のふもと、燕市吉田町本町(よしだまち・もとまち)にあります。約11ヘクタールの土地に主にコメを育て、キュウリも栽培しています。このあたりは信濃川の分流を水源とし、保元元年(1156年)7月、平治の乱の3年前にご先祖が京都から移り住んだと言われているそうです。

 

新米2022 令和4年 新潟こしひかり 無農薬 減農薬 お米の産地直送: 一笑百姓:ひうら農場(ひうら農場):トップページ (hiurafarm.com) 

 

今回、お話をしていただいたのは、現在の当主を務める、27代目の樋浦幸彦さん。名刺には「一笑 百姓」の言葉が印刷されています。天保時代(1830年代頃)に建てられた母屋で、私たちは樋浦さんと髙畑株式会社取締役店長、髙畑篤志さんから話を伺いました。

高畑さんの会社は「タカバタケCHAYA」の看板を掲げ、始まりは1887年の「おきみ茶屋」。篤志さんはここの婿養子となり、5代目だそうです。

 http://www.chaya-takabatake.co.jp/company.html 

 

樋浦さんと髙畑さんは、地元燕を盛り上げようと、2018年の4⽉からお酒づくりに乗り出しました。熱い思いを持った農家と酒屋さんがタッグを組んだのです。それが、TSUBAME × ACTIONS(ツバメクロスアクションズ)という団体になり、「農・商・工」連携をテーマに日々活動しています。

 

初めは、もとまちきゅうりをレモネードにし、マラソン後に配布するなど、過去様々なイベント・パーティーを設える機会に恵まれてきました。しかし、燕市には酒蔵や醸造元が無く、他地域のお酒をお客様に説明して販売・提供しており、もし、地元の日本酒があれば、自信をもって市外、県外へ発信できるのではないかと、感じるようになりました。また、燕から日本酒を発信する事で、燕市の工業製品(ステンレス製酒器)・農業(酒米)と連携し、地域の魅力をたくさんの方々へお届けできるのではないかと思ったそうです。

 

その後、コロナ禍で経営が苦しくなって来た地元の飲食店の状況を知る中で、

今までにない日本酒を燕市の皆様と一緒に造り上げる事が、今までの燕市を築き上げてきた先輩方への恩返しに繋がると信じ、そして新しいアプローチとして、2022 年に大河津分水路(おおこうづぶんすいろ)が100周年を迎える記念の意味もあり、燕の地域酒『haretoke (以下、ハレトケ)』の製造を始めたのだそうです。 

まずは、日本酒を苦手としている若年層(20代~30代)の方々が気軽に愛飲していただける地酒(レギュラー酒)を目指しました。そのため、製造する上で重視したことは、「甘くも、辛くもなく調度良い加減」で、「燗でも冷酒でも常温でも飲めるもの」。そして、「ご家庭や飲食店で気軽に飲める<定番酒>を目指し、価格、味などすべてこれに準じたものにする。そうすることで、地域の人に知ってもらえる機会が増えると考えた」といいます。

 

しかし、製造を進めるにあたって障壁もありました。それは、40年前に酒蔵がひとつもなくなっており、多くの人が酒の製造を反対したそうです。しかし、コロナ禍で経営に苦しむ、市内の80件の酒屋さんを助けたいという思いから、反対意見を持つ人たちを説得して回りました。

 

また、日本酒のブランドを印象付けるものとして、とても重要であるラベルにもこだわりました。それが以下のデザインです。 

haretoke (ハレトケ)のラベル 

引用:日本酒プロジェクト – 新潟県燕市の日本酒 ハレトケ | ツバメクロスアクションズ (tsubamecrossactions.jp) 

 

これらの過程を経て、燕の地域酒『haretoke (ハレトケ)』は製造されました。「ハレトケ」の名前の由来ですが、「ハレバレと楽しんでもらえるように」造った、燕の純米の地酒(レギュラー酒)を基本コンセプトとして、日々飲んで欲しい、どんな日でも「ハレの日(祭事、儀礼、お祝い行事)とケの日(日常、普段の生活)とケカレの日(日常でない、不浄、清め、祓い、葬儀、日常が枯れた状態)」というものを、メインにして考え出されました。また、 方言である「晴れとけや!」「はれとけいや!」からも来ており、「晴れて欲しい!晴れやかな気持ちでいて欲しい!」と、コロナや様々な苦境にいる飲食店さんや、飲んでくださる方々が、少しでも元気になってもらいたいと願いを込めました。

 

このような思いで企画された地域酒『haretoke (ハレトケ)』ですが、その製造費用は、クラウドファンディングと補助金で集めたそうです。販売先としては、燕市内で地域酒を広めることを目標にしていたため、主に地域の飲食店に絞り、キャンペーンを利用し、売り出したそうです。結果、飲みやすく、どの料理にも合うと口コミが広まり、飲食店から「置かせてほしい!」という声が上がるほど大人気となりました。 

 

今後、地域酒『haretoke (ハレトケ)』を燕の特産品・お土産にし、工場の祭典にも出品していきたいと考えているそうです。 そして、燕の日本酒をコミュニケーションツールとして活用していただきながら、人情味あふれた「職人の町」を未来へ繋げるお手伝いが、このプロジェクトを通してできれば、と樋浦さんは強く語っておられました。

 

樋浦さんが事業を進めるにあたって大切にしているのは、真摯に対応し、信頼を得ること。私は、これらのことを心がけているからこそ、地元を盛り上げたいという思いが地域の方々に伝わったのだと思いました。また、製造案や、製造費用、販売方法を考えることも重要ですが、第一に、真摯に対応し、信頼を得ることが重要なのだと実感しました。 

 

 写真4:ひうら農場母屋(燕市吉田本町)

出所:根橋研究員撮影

 

 

宮町シェアオフィス  

 

最後に、私たちは宮町(みやちょう)シェアオフィスの見学と、株式会社新越ワークスの山後隼人取締役事業部長のお話を伺いました。 

 

宮町シェアオフィスでは、新たな仕事場を構えたい企業・個人事業主などに貸し出しています。様々な専門分野の人々の交流の場として、また、いろいろな職業の人と関わることで、アイデアが生まれる場所、きっかけの場所作りになります。県外などからの遠隔利用も可能で、シェアオフィス内ではどこへでもアクセスできるインタラクティブホワイトボードが設置され、会議を開催できます。現在、東京に本社がある企業の新潟支店として貸し出すなど、地元の企業・個人事業主も活用しているそうです。 

 

株式会社新越ワークス 

 

株式会社新越ワークスは、もともと金属の線を加工するのが得意だったため、創業当時からざる(キッチン用品・業務用)に特化して商品を販売していました。

https://www.shin-works.co.jp/ 

 

現在は、キャンプ用品などを販売しているユニフレーム事業部門のほか、木質ペレットを燃やすストーブなどを販売しているwarmArts部門があります。さらに酒器などを販売し、「Three Snow」ブランドも展開しています。 

 https://threesnow.jp/

 

私たちは、山後隼人さんにThree SnowやwarmArts、ユニフレーム、「まどろむ酒器」についてお話を伺いました。 

 

Three Snowでは、「食の可能性を共創していく」をテーマに、文化にもアクセスし、省力化できるような道具作りを行っています。主力商品は、湯切りやみそこし、茶こしです。これらの商品は、大手飲食チェーン店にも供給しており、その他大手の飲料メーカーである伊藤園と共同開発してつくった新商品もあるそうです。 

次にwarmArts について伺いました。warmArtsでは、環境配慮型商品である、石油を木質ペレットで代用したストーブを販売しています。これらは、通信販売雑誌のカタログハウスと連携しながら販売をしているそうです。 

一方、ユニフレームでは、キャンプ用品を主に販売しています。初期のころは新越ワークスの得意分野である金網が使われているカセットコンロや焼き網炉端を手掛けていましたが、金網メッシュの技術とガスのノウハウを掛け合わせ、網だけでなく、キャンプ用品を作り出し、事業を拡大することに成功しています。 

 

最後に、まどろむ酒器についてお話を伺いました。まどろむ酒器は、山後隼人さんが自社の製品を持ってアメリカの展示会に参加した時に、海外の方たちが文化について「ストーリー性のあるものに興味を示す」ことに気づき、日本文化である花火や桜を見ながら、日本酒を飲める酒器を思いついたそうです。 

また、酒屋さんや蔵元さんと対話する中で「酒びんのラベルには四季があるが、酒器には四季ない」ことに気づき、季節ごとのびんと酒器を一緒にディスプレイして販売したらいいのではと考え商品化を進めました。

商品化にあたっては、サイズを重要視し、飲食店が日本酒を提供する際に一番よく使われるサイズで、絵が一番映えるサイズであること。下から色づくという特徴を生かして花火や桜の絵柄を採用し、酒器の容量を150mlにしたとのことです。 

 

 

ビジネスデザイン学科1年 萩琴乃