地域貢献活動
【現代ビジネス研究所・研究助成金採択プロジェクト】地域の加工技術とグローバル優位性(金沢の地場産業調査)
金沢卯辰山工芸工房②―時代とともに変化する作家ファーストな工房―
こんにちは。金沢プロジェクトの現代教養学科4年 近藤菜々子(こんどう・ななこ)です。
今回②では「金沢卯辰山工芸工房」の概要と、工房での取り組みがどう変化していったのかをご紹介します。
1.金沢卯辰山工芸工房の概要
「金沢卯辰山(うたつやま)工芸工房」は石川県金沢市卯辰町にある工芸作家の研修施設です。
1989年(平成元年)11月1日に設立されました。金沢市民にとって工芸は、地域文化の一つでした。そこで、現代の御細工所になるようなものを作り「人材を育て、工芸文化を発展させる。金沢の様々な工芸や作家を街づくりの1つにしよう」という目的で設立されました。
設立にあたり「ガラス」が追加され、陶器、金工、染、漆、ガラス、全5工房となりました。ガラスが追加された理由は、漆や染めは地域性が見られますが、ガラス素材は世界共通であり、世界とつながると考えられたこと、また、それぞれ異なる素材を扱う作家同士の良い刺激になることも期待されました。
現在、研修を受けている人は28人います。その方々は入学試験で一定のレベルの技術があると認められた人のみです。在籍できる年数は2~3年で、3年に進級する前に、面接と作品審査を行います。結果によっては進級できない可能性もあるそうです。
授業料、施設料は完全無料で、金沢市が負担しています。川本館長さんは「金沢市の工芸に対する投資は、他の自治体と比べ物にならない!素晴らしい!」とおっしゃっていました。
2.金沢卯辰山工芸工房の研修
卯辰山工芸工房には「先生」はいません。プロとして活動されている専門員の方が研修者個別に相談や指導にあたっています。外来の講師は、研修者の研究テーマに合わせて毎年日本各地から招聘されています。
ビジネスを学ぶ機会
工房の研修者は、毎年3月に東京都有楽町で行われる「アートフェア東京」に出店しています。また、年に2回東京ビッグサイトで行われる「インテリアライフスタイル展」「インテリアリビング展」では自分の作品をセルフプロデュースしています。この体験を通して商材としての見せ方を覚えたり、世界中のギャラリーとつながるビッグチャンスでもあります。
作家同士の交流
3年に一度研修者全員同一テーマで制作から発表まで企画し、分野を超えて事業を行います。発表の場所は東京の「銀座の金沢-dining garelly-」や「クラフト広坂」などテーマにふさわしい場所を選定します。座学では、工房別の座学や全員に対して行われ、多様な表現を考えるためのものがあります。
江戸時代から受け継がれる「兼芸」
卯辰山工芸工房の研修では月に一度、伝統を学ぶため「茶道」「書道」「華道」の授業が行われています。工房内にある茶室で一年に一度、「卯辰茶会」を開催し、初心者にも亭主になる機会を設けられます。その時使用する茶道具、衣装の染め、掛け軸などは自分たちで制作したものを用います。「お道具拝見」では工芸作家や茶道経験者たちが楽しそうに語りかけていただく対話のなかで、コミュニケーションを学ぶ機会にもなっています。
3.転換期を迎え、より作家ファーストになった工房
2019年までの工房のテーマは「育てる」「見せる」「参加する」でした。特に「参加する」においては、市民に工芸を体験してもらう場を工房に設けていました。これは見本通りに同じものを作る「手芸」とは異なり、それぞれオリジナルのものを作る「工芸」ならではの楽しみを知ってもらうためでした。
2019年(令和元年)は金沢市政130年記念事業として、金沢卯辰山工芸工房設立当初のテーマがリニューアルされ、「育てる」「つながる」「発信する」に変わりました。これら3つは関連しあっており、さらなる発展への期待が込められています。研修者の視点に立った「研修者ファースト」な施設に変わりしました。
「展示室」から「資料室」へ
工房がかつて掲げていたテーマであった「見せる」が無くなったことから、工房内にあった「見学者向け」の展示を終了しました。そして、研修者が学ぶための「資料」が増やされました。現在では、多様な研究者の作品を並べられ、研修者が刺激し合う場所、ギャラリストとビジネス面での関わりを生むような場所になっています。
世界に「繋がる」共同工房
館内の「共同工房」では、アーティストインレジデンスとして、中国の景徳鎮の絵付けと九谷焼の絵付けのコラボ作品制作などが昨年行われました。現在はコロナウィルスの影響で中断していますが、世界とコラボ企画が多く行われています。以前は、アメリカやアジアに一方的に行くというケースが多かったそうですが、今後は双方向の交流を盛んに行っていく予定で、2019年からの新テーマに沿ったものになっています。
川本さんが「『金沢の工芸』をその時代に沿って革新をしながら『伝えていく』。そのスタイルが何年後かに「伝統」となっていることが理想のかたち。」とおっしゃっていたことが印象的でした。
今回は金沢卯辰山工芸工房が転換期を迎えた今、どのように変化したか、引き続き行われていることは何かを紹介しました。次回③では、現在工房で研修を受けられている作家さん2名のインタビューをご紹介します。