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【現代ビジネス研究所・研究助成金採択プロジェクト】地域の加工技術とグローバル優位性(金沢の地場産業調査)

赤地陶房ー「雑器」の美②ー

今回は赤地径さんの器づくりの今と販売についての記事です。

1.器づくりのデザインや販売に関して

径さんによれば、器づくりのデザインは、子供の小学校のおたよりの裏紙やチラシの裏を利用していたとのことですが、最近は、iPadを使っているそうです。白い器の写真をとってその上にデザインでき、色を重ねることができるので便利とおっしゃっていました。

器の販売先は、九谷焼専門店、土産物屋、レストランの食器、ギャラリー、デパートなど多様です。個人で作品を購入したい場合はショップや展示会で購入できるそうです。

 

写真1:赤地さんの作品が購入できる「星野リゾート界 加賀」のロビー・売店

出所: 根橋玲子研究員撮影

 

 

写真2:界では、普段使いの茶碗、箸置き等の赤地陶房の作品も販売されている。

出所:根橋研究員撮影

 

(なお、陶房は一般公開されておらず、また、今回訪問させていただいた陶房での販売は行っていませんのでご注意ください。)

お店に納品する際は、買い付けの人によって好みの柄形があるため、それぞれに送っているそうです。例えば、「前にあった、この柄がほしい」という注文が多いとのことです。それと並行して、径さんは新たなデザインを生みだしています。こうして流動的に注文内容は変化しています。

工芸品の売買は、マーケティングとは違ったところでモノが動く世界で、お店の人が売りたいものが売り上げに繫がる部分もあることから、お店の人の気持ちや好み次第アンテナが重要だそうです。

 

2.お客さんやほかの作家との交流

年に3回開催される展示会で、新作を発表しています。春は東京ミッドタウンにある福光屋(石川県に本社がある1625年創業の金沢で最も古い酒蔵酒屋)、お正月には福岡県の器専門の小さなギャラリー、夏には金沢クラフト創造機構が運営しているdining gallery銀座の金沢で行われています。

径さんたちは通常他の作家と交流する機会は少ないそうですが、個展やクラフトマーケットなどの展示会では交流があるそうです。また、別の人の作品を見に来たお客さんが、偶然赤地さんの作品に出会い、そこから注文の依頼がくるということも多いそうです。お客さんの声を直接聞くことのできる、重要な機会となっています。

近年では、Instagramを見て、食器にこだわる人は多くいることや若い人からの声も届きやすくなっているそうです。「器を手にして、喜んでくれた反応が届くことがうれしい」とおっしゃっていました。

 

3.伝統工芸の売り手について

電子レンジや食器洗浄機に対応しているお皿の需要が高まっていることや、惣菜パックをそのまま食べる人もいる時代になりつつあります。幸い、金沢には観光客がたくさん来ることもあり大きな問題にはなっていません。しかし、その食生活が、一巡して食文化が変わったときに、食器を買わない人が増えることが考えられます。

この現象について、赤地さんたちはどうとらえておられるのかを伺いました。赤地陶房においては、器を量産しているところとはまた異なり、手作業2人で作れる量には限りがあると考えているそうです。実際に、作った分を売るだけの需要はあるとおっしゃっていました。

また、器を購入してくれたお客さんや、関心があるお客さんの反応を見ていると、食卓に「かわいい」「目で楽しめる」といった器の彩を求めている様子が見られるそうです。

食卓の基本に戻って、お茶碗、箸、箸置きを並べて食べたい、といった欲求は必ず戻ってくるのではないかと答えていました。そのような需要に応えていける仕事がしたいとおっしゃっていました。

 

4.今後どのような器を作っていきたいか

棚に仕舞われるよりも毎日のように使用してもらえたり、「器に興味がない人でも、見た目から使ってみたい、魅力的だと思ってくれるような作品を創りたい。それはお店の人が売ってくれる作品を創るということが根底にある。」とおっしゃっていました。

特段、海外向けの商品を作ることは考えておらず、金沢に器を求めて訪れた人々が「野生(生活)に入り込んでいる伝統工芸が見られる街」になるとよいのではないかと話していました。

 

赤地径さんの、

「茶碗でもなんでも、ちょっとしたものでも、そこにあるだけで

『あ~いいな~』と思えるものがつくれたらいいな…」 という言葉が印象に残りました。

 

ヒアリング終了後には陶房内を見学させていただきました。

こちらは制作途中の器です。

写真3: 赤地陶房1階で絵付けが行われています。

出所:黒保 撮影

 

写真4:赤地陶房2階(左から、赤地映里さん、黒保、近藤、赤地径さん)

出所:金沢工業大学 大砂雅子教授 撮影

 

工芸の技術を使い、第一線でご活躍されている方にインタビューするということで、緊張していました。しかし、径さんが自然体でインタビューに答えてくださったことや奥様とのやりとりを見ているうちに、器自身にも、この自然さが表れているのだと分かりました。ヒアリングに応じてくださった赤地陶房の赤地径さん、そして奥様の映里さん、本当にありがとうございました。次回は卯辰山工芸工房でのヒアリングについてご報告します。

(現代教養学科4年・近藤)