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【現代ビジネス研究所・研究助成金採択プロジェクト】燕三条地域の加工技術とグローバル優位性~産業集積を支えるものづくりのDNAを探る

【2019年度調査報告】世界の医療機器産業を支える台湾ハイテククラスターの役割 ~燕三条地域と台湾の金属加工クラスターとの連携可能性を探る

昭和女子大学現代ビジネス研究所
研究員 根橋玲子

 

 

関・福田(1998)、河藤(2012)によれば、新潟県燕三条地域は、日本でも有数の金属加工製造の集積地であり、競争優位性のある製造技術を持つ中小企業が集積している 。一方、台湾は金属加工製品の高付加価値化が推進されており、特に人工関節や、インプラント等を中心に医療機器産業においては成長が著しい。また、台湾企業は、グローバルな組織経営能力や迅速な意思決定能力、さらにグローバル人材の積極的な活用等の点で、燕三条地域の中小企業が学ぶべき点が多い。

 

また、台湾企業は、台商と呼ばれる台湾華僑企業経営者等の人脈を通じ、アジア諸国や欧米企業と強固なネットワークを構築し、国際ビジネスを有利に進めていることもあり、グローバル販路や新興国向け製品開発等の点で、燕三条地域の中小企業が台湾企業との協業により、享受できるメリットも大きいと言える。2019年度調査では、燕地域と台湾の産業集積の連携による、医療・福祉機器等や産業機械分野の金属加工製品の海外販路開拓や共同開発やアジア諸国、欧米への展開可能性を探った。

 

1.医療機器産業における台湾のハイテククラスターの位置づけ

 

① 台湾のハイテククラスターとグローバル優位性
燕三条地域が連携を目指す海外の産業集積として、台湾のクラスターに着目する理由として、台湾企業のグローバル競争力の高さやイノベーション創出力の高さが挙げられる。台湾は貿易や経済の自由度が高く、米シンクタンクのヘリテージ財団とウォールストリートジャーナルが共同で発表した「2019年経済自由度指数」は世界第10位(186ヵ国・地域)となった。また、スイスのシンクタンク、世界経済フォーラム(WEF)が発表した、「2019年世界競争力ランキング 」では、台湾は世界16位(140ヵ国・地域)で、アジア勢では4位となっている。また、「経営プラクティス」が世界4位、アジア太平洋地域でトップとなっている。台湾はグローバル企業輩出数も多い。1980年代以降台湾ハイテククラスターからスピンオフした台湾企業は、IT・半導体分野において、グローバル企業として多数活躍している。

 

また、台湾のハイテククラスターは、国際機関や海外評価機関により、世界でもトップクラスの産業クラスターと評価されている。台湾の工業技術発展のため、1980年代以降台湾の国家科学委員会(NSC)によって科学工業園区(以下、サイエンスパーク)が設立され、先端技術人材育成や産業誘致が行われてきた。台湾にあるサイエンスパークは、IT、ナノテク、バイオなど新産業に特化しており、現在運営されている16ヵ所のうち、主要サイエンスパークとしては、新竹科学工業園区、台南科学工業園区、台中科学工業園区3ヵ所が挙げられるこのように、台湾のハイテククラスターでは、大学などの学術研究機関や、工業技術研究院(以下、ITRI)、金属工業発展研究センター(以下、金属センター)などの技術連携・移転機関等が拠点を構え、クラスター内での産学官研連携が行われている。特に、ITRIや金属センターでは、世界の研究者・技術者との交流を行っており、最新の設備を揃えた施設で、保有技術の市場化や製品化を目的として事業を行っている。

 

他方、台湾では少子高齢化が加速していることから、台湾当局は、医療機器産業や介護福祉産業について政策的に支援を行っている。また、医療機器分野におけるグローバル優位性を確保するため、台湾の産業高付加価値化を目指した産業育成や技術革新が、行政主導で行われている。こうした台湾の医療機器産業の高度化は、主に世界的に評価の高い台湾のハイテククラスター を軸として行われている。例えば、新竹を中心とした電気・電子産業のハイテククラスターを医療電子機器の集積へとグレードアップさせたり、高雄の金属加工業の集積を、人工関節やインプラント等特殊金属材料による医療機器や素材へと高付加価値化させたりという産業転換が、行政主導で積極的に行われているのである。